水平社宣言から百年
1922年3月3日、京都・岡崎公会堂で全国水平社の創立大会が開催された。50年ほど前に明治政府が「解放令」で「穢多」や「非人」などの身分制度を廃止して以降も、差別意識が世の中(お寺も含めて)にまん延していた時代。大会で採択された全国水平社創立宣言は、日本で初めての人権宣言と言われている。結びの言葉が
〈人の世に熱あれ、人間に光あれ〉
心を揺さぶる力強い文章
宣言文の起草者の一人、西光万吉は被差別部落にある浄土真宗本願寺派のお寺に生まれた。差別をされて中学校を退学するような悲しい出来事が重なり、自ら命を断つことも考えたそうである。そんな苦難を転じて生まれた宣言文の言葉は実に力強い。
中学生の時に、初めてこの言葉を知った。人間を立ち上がらせていくこのたくましさはどこから出てくるのだろう…と心を揺さぶられた記憶が深く刻まれている。
〈人間を勦(いたわ)るかの如き運動は、かえって多くの兄弟を堕落させた…人間を尊敬する事によって自ら解放せん〉 〈吾々の祖先は自由、平等の渇仰者であり、実行者であった〉 〈なほ誇り得る人間の血は、涸れずにあった〉
被差別部落に生きていた親鸞
僧侶として、真宗大谷派が差別事件で部落解放同盟から糾弾を受けている問題に向き合う中で、ハッキリした。本願寺に伝わってきた親鸞の教えは、織田信長との戦いなどで傷つく。そして、江戸時代になると幕府の寺檀制度に組み込まれ、弱き人小さき人を支える方向から強いもの(権力)の代弁者へと、根幹部分が変質してしまう。
ところが、そんな歴史に埋もれることなく本来の教えが被差別部落の人々の中で生き続けていたのである。つまり、水平社宣言の力強さやたくましさは、本願に由来するもの。また、差別から解放されたいと求める声、叫びや呻き嘆きとして発動するのが念仏、如来からの呼びかけなのだ。昨年亡くなられた泉惠機先生や多くの先師によって回復された法脈である。
ロシアがウクライナに侵攻した。そんな今こそ、この法脈に立ち帰る〈時がきた〉と言いたい。
プーチンさんに〈いのちの温もり〉を
水平社宣言が求めるのは、自分の立場だけを強く大きく立派にすることではない。〈人の世に熱あれ〉である。なぜなら、自分の立場が一方的に改善するのでは、他の立場の人々を弱く小さくみじめにすることになりかねない。それでは心から喜べないからだろう。
〈熱〉を先師は〈いのちの温もり〉と咀嚼して下さった。プーチンさんが本当に安心できるのは、ウクライナを我が物にすることではなく、〈いのちの温もり〉に触れ、手が合わさること。それは、バイデンさんや習近平さんにも言える。
[真宗大谷派西誓寺寺報「ルート8」243号から転載]
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