漫画『はだしのゲン』の作者中沢啓治さんの墓石に刻まれている言葉。
『はだしのゲン』を中国語に翻訳
本年はこの名作の雑誌連載開始50周年ということもあり、様々な催しが行われている。NHK番組『こころの時代―はだしのゲンと父―』では中国語翻訳を担当された坂東弘美さんをクローズアップ。(8月20日放送)。日中戦争で出征した自分のお父さんが大陸で経験したことを知った衝撃が背景にある、と言う。
お父さんの戦争体験
木工職人で何でも器用に造ることができる優しい人だったお父さん。戦争について語ることはなかった。ところが、晩年、小学生の孫の宿題に協力する形で手紙を書き始める。三ケ月で三四三枚もの分量で、中国で何をしてきたか克明に伝えられた。その衝撃的な内容―上海から南京に滞在、助けを求めて子どもを抱いた母親に機関銃が向けられた…女性に寝首をかかれたくないから殺す…殺さなかったら俺が殺された…。
ゲンのお父さんは対照的
生き延びるために、と人を殺したお父さんの先に自分のいのちがある。そんな自分が悔いなく生きるには何をすればいいのだろうか。自分が受けたものを社会にどう返していったらいいのだろうか。坂東さんはアナウンサーだった職を辞して、中国で日本語教師となった。そして、注目したのが『はだしのゲン』。登場人物ではゲンのお父さんだった。
国家の命ずるままに生きた自分のお父さんとは全く対照的。軍国主義や朝鮮人への差別に反対し、竹やり訓練は愚かだと口にする。「非国民だ」「恥知らず」と非難され、特高警察に連行される。孤立し、弾圧されてもその立場を貫く。「体は傷つけられても 心の中まで傷つけられはせんわい」と。
麦の精神
「卑怯者臆病者と言われてもええ 非国民とののしられてもええ 自分の命 人の命を大切に守ることが いちばん勇気のいることなんじゃ」
「おまえたちはだまされるんじゃないぞ 朝鮮の人や中国の人 みんなと仲よくするんだ それが戦争をふせぐたったひとつの道だ」
そんなお父さんを支えるのが麦の精神。
「おまえは麦になれ きびしい冬に芽をだし ふまれてふまれて つよく大地に 根をはり まっすぐにのびて 実をつける 麦になるんじゃ」
平和はつくっていくもの
坂東さんは語る。
「しかたがなかった、ですまされるのか。そういう時代だったから、と言ってはいけない」「気をつけないと時代に流されてしまう。だから、ゲンの力を借りる」のだと。中国語訳は台湾で出版することができた。しかし、中国本土ではまだ実現できていない。大陸の人に読まれるようになり、痛みを共有することは麦の精神をつなぐことでもある。
「平和はもらうものでなく、つくっていくもの」(別番組でのインタビューから)
[真宗大谷派西誓寺寺報「ルート8」260号から転載]
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