はて?

『虎に翼』―女性は無能力者―

現在放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。日本で初めて女性として弁護士や裁判所長を務めた三淵嘉子さんをモデルに制作されている。そのヒロイン(猪爪寅子)の口癖で印象的な言葉が〈はて?〉

たまたま足を運んだ大学の講義の中で、「婚姻状態にある女性は無能力者」と耳にして〈はて?〉 しかし、よくよく確かめると、家父長制度が色濃く根付いていた当時ではまぎれもない法律的事実。民法第14条の規定により、妻は夫の許可なく財産を利用したり働きに出ることはできなかった。

〈はて?〉

寅子は法曹界へと歩み出す。

立ち止まって問い返すー仏の智慧― 

〈はて?〉とは、なぜだろう?それは一体どういうことだろう?自分はこれでいいのか?と立ち止まって現実を問い返す言葉。問いかけてくるのは、煩悩がわからない人間に真実を伝えようとはたらく仏の智慧と言える。

弥陀成仏のこのかたは

いまに十劫をへたまえり

法身の光輪きわもなく 

世の盲冥をてらすなり

日常的にお勤めされているこの和讃を大胆に意訳すれば―日々の生活に流されてしまい、長らく真実に向き合うことがなかった私ではあるが、今〈はて?〉と問い返す目覚めの時が来た。おかげさまで、全く知らなかった知ろうともしなかった現実生活の闇に、私が人間として生涯を捧げる道が明らかになった。こんな私にまでも、智慧の光は届いていたのだ。

盲冥の冥とは、覆われて見えないこと。ここでは、旧民法という制度の枠にはめられることによって、女性から人間本来の尊さが奪われている状態であろう。そういう社会的煩悩に囚われているこの身が照らされた。別の表現をすれば、仏の清浄なる世界から光が射しこみ瞬間的に煩悩から解放された。その驚きの声が〈はて?〉だろう。寅子が称える〈南無阿弥陀仏〉が響き渡る。

自分にとっての〈はて?〉

自分にも最近〈はて?〉と問い返されたことが二つある。

一つ目。車を運転中にたまたま流れていたラジオ番組で、若いミュージシャンがこう質問された。

愛するってどういうことだと思いますか?うーん…。これは教えられたことだけど、花が好きな人はその花を切って持ち帰る。花を愛する人はその花に水を注ぐ…。

もう一つは、同朋新聞の最新号(6月号)3頁の大石賢斉さんインタビュー記事。能登半島地震を経験された中で、大事なことは?と問われた被災地で活動するこの開業医は語る。

大きな災害に遭ってしまった時には、わが身一つで何とかしなきゃいけない。それを想定すると、何か前もって準備することより、手放していくことの方が大事なんじゃないかと思います。大自然の中に一人投げ出されても、生きていけるという自信を持つことができれば、物はなくても、生き残るために大事な心構えがおのずと身についていくのではないでしょうか。…もしかすると、物を準備するとか、物に対するこだわりとか、そういったものが一番必要のないことなのかもしれません。

[真宗大谷派西誓寺寺報「ルート8」268号から転載]

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